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政利さんは2003年12月に肺炎で他界。享年は77歳。二人は55年連れ添った。体が弱く、いつまで生きられるかわからないと覚悟を決めていた人が、77歳まで生きた。それは和枝さんが政利さんを支え、政利さんが大好きなマジックに心おきなく没頭できたからではないだろうか。
店の天井には今もマジックの撮影のための機材が吊る下がり、政利さんの生きた痕跡があちこちに残っている。
「取材の方にこんなお話をしたの初めてよ」
和枝さんは人懐っこい笑顔で最後にそう言った。
和枝さんが少女のような素敵な笑顔の持ち主なのは、政利さんと生きた年月が幸福なものだったからに違いない。
二人の大切なこの空間が、いつまでも守られることを心から祈りながら撮影をした。
(単行本『東京ノスタルジック喫茶店』河出書房新社刊、より一部引用。)
純喫茶テンダリー(金町)-01につづく